哲学・倫理学の輪郭を (ざっくり)つかむための読書ガイド
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哲学・倫理学の輪郭を(ざっくり)つかむための読書ガイド:最初の5冊編
選書の姿勢として、ビッグネームが書いた古典的な著作を入れず、最近のものを多めに紹介しました。特に割と新しくて日本人が書いた入門書を入れてあります。
「哲学の問題群―もういちど考えてみること」と「倫理学の話」は、人の名前時系列での紹介ではなく、多くの哲学者が悩んできた問題を中心とした本。入門者にとってはわかりやすく読んでいて飽きないのでオススメです。「人間とその生」「私と他者」「自由と行為」「知識と言語」「存在と世界」「善悪と価値」「社会と人間」「苦悩と幸福」など、哲学や倫理学に関心のある人なら必ず一度は考えたことのあるテーマについて掘り下げられています。
「哲学の道具箱」については「倫理学の道具箱」という本もあるのでセットで読んでいただきたいのですが、哲学や倫理学の領域で使い方が決まっている用語を実際にうまく使えるようにするための本です。この種のボキャブラリーが増えれば読める本が増えます。こういう用語集を丁寧に読むのはとても大事。用語集と言っても哲学辞典みたいなものは初学者の役に立つか怪しいところがありますが、道具箱シリーズは用語に関する読み物のようなところがあり、入門にオススメです。
「メタ倫理学入門: 道徳のそもそもを考える」は去年最大のヒット作です。倫理学に関心のある多くの人は、実はこの「メタ倫理学」に関心があるのではないかと私は考えています。つまり、ある問題に対して「これが正しい」という主張に関心があるのではなくて、「なぜそれが正しいと言えるのか」を考えたい人向けの本になります。入門者向けの本にもかかわらず妥協がなく、最新の研究を反映している、素晴らしい一冊です。
「哲学思考トレーニング 」方法論に関連した本になります。問題を丁寧に見るということそのもののやり方が書かれています。哲学者というと闇雲に常識を疑うようなイメージがあるかもしれませんが、よい疑い方とよくない疑い方があります。そのための方法論、エッセンスが詰まっている本になります。
哲学・倫理学の輪郭を (ざっくり)つかむための読書ガイド2022 春改訂版
1 事典・用語集
• 永井均ほか編『事典 哲学の木』(講談社, 2002)
• 廣松渉ほか編『岩波哲学・思想事典』(岩波書店, 1998)
• 大庭健ほか編『現代倫理学事典』(弘文堂, 2006)
• ジュリアン・バジーニ/ピーター・フォスル『哲学の道具箱』(共立出版, 2007)
• ジュリアン・バジーニ/ピーター・フォスル『倫理学の道具箱』(共立出版, 2007)
事典類は必ずしも買う必要はないが、存在を覚えておくこと。〈道具箱〉シリーズは初心者向けのキーワード集だが、わかりにくい用語のイメージをつかむのに最適。
2 哲学・倫理学の諸テーマとその入門
• 野矢茂樹『哲学・航海日誌』〈1〉〈2〉(中公文庫, 2010)
• 野矢茂樹『語りえぬものを語る』(講談社学術文庫, 2020)
• 古田徹也『不道徳的倫理学講義』(ちくま新書, 2019)
• 飯田隆『新哲学対話: ソクラテスならどう考える?』(筑摩書房, 2017)
• ジェームズ・レイチェルズ『新版 現実をみつめる道徳哲学』(晃洋書房, 2017)
• 伊勢田哲治『動物からの倫理学入門』(名古屋大学出版会, 2008)
• 品川哲彦『倫理学の話』(ナカニシヤ出版, 2016)
優れた入門書はいつ読んでも新鮮な刺激がある。現代の哲学や倫理学がどういう問題を扱うのかを知れるものをセレクトした。
3 学説史・個別の哲学者たちについて
• 貫成人『図説・標準 哲学史』(新書館, 2008)
あっさり目だが読みやすい。網羅性も高いので、他の本を読むときの副読本としても使える。
• ナイジェル・ウォーバートン『若い読者のための哲学史』(すばる舎, 2018)
読み物然としているので、毎日寝る前に読むという感じで使える。記述は分厚すぎないが、それなりに丁寧。
•『哲学の歴史』全 12 巻+別巻 (中央公論新社, 2007-2008)
西洋哲学史に登場する主要な哲学者がほぼ全て網羅されているだけでなく、近年の研究状況を反映した記述になっている。巻末の文献ガイドが非常に役に立つ。専門的に研究をしたいひとは必携。
堤林剣『政治思想史入門』(慶應義塾大学出版会, 2016)
倫理学の歴史を学ぶには政治思想史の知識もあった方がよい。この本はルソーまでしか扱っていないが、その分一章ごとの密度が濃く、二次文献の情報も充実している。
• 柘植尚則『入門・倫理学の歴史 24 人の思想家』 (梓出版社, 2016)
プラトンからロールズあたりまで、高校倫理で大きく取り上げられる哲学者の思想の概説書。基礎的な人名や概念の学びなおしに最適。
• 伊藤邦武『物語 哲学の歴史』(中公新書, 2012)
新書だが、初心者が読むようなものとしては最も高級な部類に入る。
4 現代の哲学
かゆいところに手の届くフランス現代思想の入門書。いわゆる現代思想に興味がある人はまずこれを読むのがいい。
• 田辺秋守『ビフォア・セオリー 現代思想の争点』(慶應義塾大学出版会, 2006)
上記の本よりもドイツの現代思想や批判理論に多くの紙幅が割かれている。この本も整理が行き届いており、実際に現代思想家の本を読む前の下図を提供してくれる。
• 戸田山和久『哲学入門』(ちくま新書, 2014)
新書にしては分厚い量で、かなりハードな内容だが「現代哲学」の問題群と考え方がよくわかる。
• 佐藤岳詩『メタ倫理学入門』(勁草書房, 2017)
倫理学の初学者はメタ倫理学でつまづくケースが多いが、その多くの疑問にこの本は答えてくれる。『動物からの倫理学入門』(のメタ倫理学の章)と併せて読むといいだろう。
• 植村玄輝・八重樫徹・吉川孝編『ワードマップ 現代現象学』(新曜社, 2017)
単に現象学の入門書というだけでなく、現象学を通した哲学入門を意識して書かれている。
• 瀧川裕英・宇佐美誠・大屋雄裕『法哲学』(有斐閣, 2014)
法哲学と題されているが、現代の政治哲学や社会哲学と関連する部分も多い。質の高い教科書。
5. アカデミックスキル
• 戸田山和久『最新版 論文の教室 レポートから卒論まで』 (NHK ブックス, 2021)
• 小野田博一『一生使える! 13 歳からの論理ノート』(PHP 文庫, 2020)
• 植原亮『思考力改善ドリル』(勁草書房, 2020)
• 吉岡友治『シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え書く技術』(草思社, 2014)
「大学の授業は高校までとは違う」ということを大学新入生はうんざりするほど言われる。そのなかでももっとも躓きやすいのがレポートだろう。(授業にもよるが)レポートはアカデミックな論文に準じる形式と構成、論理が必要になる。このタイプの文章作成が得意になると大学の外でも「文章が書ける」という扱いになるので、真っ先にこれらの本で感覚をつかむこと。
6. 本の選び方
• この数年、めまいがするほど多くの哲学入門書が出ている。そのどれもが初学者に最善というわけではないが、2000 年以前のものよりも随分ていねいで最新の研究状況を踏まえたものが多いし、参考文献やブックガイドもきちんと表記されている。昔の本が悪いとは言わないが、新しいものを優先するというのは打率と効率の面から悪くない。
• シリーズとして刊行されているものにも注目しておきたい。シリーズものを刊行するのは編集者にとってかなり大変で、その分だけ力が入っていると考えられる。海外の有名な入門書シリーズの翻訳である〈一冊でわかる〉シリーズや〈哲学がわかる〉シリーズ、〈現代哲学のキーコンセプト〉シリーズ(いずれも岩波書店)や、講談社選書メチエから出ている〈極限の思想〉シリーズ、現代書館の〈いま読む!名著〉シリーズ、角川選書〈世界の思想〉など、色々ある。
• 哲学に限らず、大学生がある分野について基礎知識を得たい場合、まずはつまらなくても教科書を読んでみて、そこについているブックガイドを参考に読んでみることが重要。良心的な教科書はブックガイドも充実していて、初学者向けから中級者向けまでフォローしているはず。その際の教科書は出来るだけ新しいものを選ぶ。分野にもよるがだいたい 2000 年代より後のものがいいだろう。
• どんな分野でもそうだが、卒論を書くためには新書や入門書だけではなく論文を読んでみることが大事。論文というと敷居が高そうだがテーマが絞られている分、慣れれば書籍よりもずっと読みやすい。cinii という web サイトの使い方や図書館のリファレンスサービスの活用法を早めに覚えておくと効率が良い。
• 学術系刊行物で評価の高い出版社と世間的に有名な出版社は必ずしも一致していない。「入門には新書」というのは間違いでもないが、新書は専門外の人が適当なことを書いているケースが結構ある。立ち読みなどしつつ勘で選ぶのもそれはそれで勉強になるが、amazon などのレビューも参考にしてもいい。ただし、評価数が少ない(目安として 5 件以下)場合はあまりあてにならない。Twitter で本のタイトルを検索すると、「通」っぽいひとや大学院生、あるいはプロ研究者っぽいひとがなにか言っているケースがある。そういうのも参考になる。ある程度量を読んでいればハズレも引きにくくなるが、最初は方法論的に権威主義者になって、教員や詳しそうな人(修士号以上が目安になる)に聞くのが良い。
哲学・倫理学の輪郭を (ざっくり)つかむための読書ガイド2018 春改訂版
1 事典・用語集
• 永井均ほか編『事典 哲学の木』(講談社, 2002)
• 廣松渉ほか編『岩波哲学・思想事典』(岩波書店, 1998)
• 大庭健ほか編『現代倫理学事典』(弘文堂, 2006)
• ジュリアン・バジーニ/ピーター・フォスル『哲学の道具箱』(共立出版, 2007)
• ジュリアン・バジーニ/ピーター・フォスル『倫理学の道具箱』(共立出版, 2007)
事典類は必ずしも買う必要はないが、存在を覚えておくこと。〈道具箱〉シリーズは初心者向けのキー
ワード集だが、わかりにくい用語のイメージをつかむのに最適。
2 哲学・倫理学の諸テーマとその入門
• 野矢茂樹『哲学・航海日誌』〈1〉〈2〉(中公文庫, 2010)
麻生博之・城戸淳編『哲学の問題群 もう一度考えてみること』(ナカニシヤ出版, 2006)
• 飯田隆『新哲学対話: ソクラテスならどう考える?』(筑摩書房, 2017)
• ジェームズ・レイチェルズ『新版 現実をみつめる道徳哲学』(晃洋書房, 2017)
• 伊勢田哲治『動物からの倫理学入門』(名古屋大学出版会, 2008)
• 品川哲彦『倫理学の話』(ナカニシヤ出版, 2016)
3 学説史・個別の哲学者たちについて
• 貫成人『図説・標準 哲学史』(新書館, 2008)
あっさり目だが読みやすい。著者は哲学史の入門ガイドを数多く出していてどれも面白いが、これがス
タンダードだろう。まずはこれから読んでみることを勧める。
•『哲学の歴史』全 12 巻+別巻(中央公論新社, 2007-2008)
西洋哲学史に登場する主要な哲学者がほぼ全て網羅されているだけでなく、近年の研究状況を反映した
記述になっている。巻末の文献ガイドが非常に役に立つ。専門的に研究をしたいひとは必携。
• 堤林剣『政治思想史入門』(慶應義塾大学出版会, 2016)
倫理学の歴史を学ぶには政治思想史の知識もあった方がよい。この本はルソーまでしか扱っていない
が、その分一章ごとの密度が濃く、二次文献の情報も充実している。
• 柘植尚則『入門・倫理学の歴史 24 人の思想家』 (梓出版社, 2016)
プラトンからロールズあたりまで、高校倫理で大きく取り上げられる哲学者の思想の概説書。基礎的な人名や概念の学びなおしに最適。
現代の哲学
• 田辺秋守『ビフォア・セオリー 現代思想の争点』(慶應義塾大学出版会, 2006)
20 世紀後半以降のフランスやドイツの現代思想や批判理論は多くの前提知識を必要とする難物だが、こ
の本は整理が行き届いており、実際に現代思想家の本を読む前の下図を提供してくれる。
• 戸田山和久『哲学入門』(ちくま新書, 2014)
新書にしては分厚い量で、かなりハードな内容だが「現代哲学」の問題群と考え方がよくわかる。
• 佐藤岳詩『メタ倫理学入門』(勁草書房, 2017)
倫理学の初学者はメタ倫理学でつまづくケースが多いが、その多くの疑問にこの本は答えてくれる。
• 植村玄輝・八重樫徹・吉川孝編『ワードマップ 現代現象学』(新曜社, 2017)
単に現象学の入門書というだけでなく、現象学を通した哲学入門を意識して書かれている。
• 瀧川裕英・宇佐美誠・大屋雄裕『法哲学』(有斐閣, 2014)
法哲学と題されているが、現代の政治哲学や社会哲学と関連する部分も多い。質の高い教科書。
5 勉強法・アカデミックスキル
• 戸田山和久『新版 論文の教室 レポートから卒論まで』 (NHK ブックス, 2012)
• 伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(ちくま新書, 2005)
• 小野田博一『13 歳からの論理ノート』(PHP 研究所, 2006)
• 大出敦『クリティカル・リーディング入門』(慶應義塾大学出版会, 2015)
• 森靖雄『大学生の学習テクニック』(大月書店, 2007)
「大学の授業は高校までとは違う」ということを受験生や大学新入生はうんざりするほど言われるが、具
体的にどう違うのかということをこれらの本を読みながら自分で考えてほしい。
本の選び方
• 日本の新書は本当に玉石混淆で専門外のひとがとんでもないことを書いていたりする。自分の感覚だと、中公新書=NHK ブックス>ちくま新書=岩波新書>講談社現代新書 という順で良書が多い。講談社現代新書はやたらに数が出ているが、本当に玉石混淆。これ以外の新書 (角川、PHP、文春など) は勉強目的で使うのはかなり慎重になる必要がある。その他、海外の有名な入門書シリーズの翻訳である〈一冊でわかる〉シリーズや〈哲学がわかる〉シリーズ(いずれも岩波書店)もお勧めできる。
• 大学生がある分野について基礎知識を得たい場合 、まずはつまらなくても教科書を読んでみて、そこに
ついているブックガイドを参考に読んでみることが重要。良心的な教科書はブックガイドも充実してい
て、初学者向けから中級者向けまでフォローしているはず。その際の教科書は出来るだけ新しいものを
選ぶ。分野にもよるがだいたい 2000 年代より後のものがいいだろう。
• どんな分野でもそうだが、卒論を書くためには新書や入門書だけではなく論文を読んでみることが大
事。論文というと敷居が高そうだがテーマが絞られている分、慣れれば書籍よりもずっと読みやすい。
cinii という web サイトの使い方や図書館のリファレンスサービスの活用法を早めに覚えておくと効率
が良い。